何も知らない独身女が初代ウルトラマンを全話観た感想。


約20年前、従姉妹が電車に飛び込んで自殺した。
その従姉妹が大事に押し入れにしまっていたのが成田美名子の「CIPHER」という少女マンガだった。

 

子供の頃は「汚してしまうから」という理由で見せてもらえなかった。
そんなことがあったので、小学生になって古本屋で買い揃えた「CIPHER」はやはり私の宝物になった。ぼろぼろになった今もたまに読み返す。

最近、成田美名子先生を知る方から、親戚の成田亨さんのことをうかがった。
「成田亨はウルトラマンの生みの親で、元々は彫刻家なんですよ。
成田の故郷の青森にも鬼の像があるので、いつか観にいらして下さい」

それで興味を持って成田亨氏の作品集を見て、衝撃を受けた。
ウルトラマンは神と人間の物語だということを知った。

 

ウルトラマンの口元は少し微笑んでいるように見えるが、それは仏像のアルカイックスマイルに着想を得た成田亨氏のアイデアだ。
ウルトラマンだけでなく、怪獣の造形ひとつひとつが成田氏の神性に対する意識の高さがうかがえる。

私は1979年生まれ。
1980年放送の「ウルトラマン80」終了から、1996年に「ウルトラマンティガ」が放送開始するまで、ウルトラシリーズは長い空白期間がある。(単発シリーズは除く)
その16年間に幼少期~思春期を過ごした私にとって「ウルトラマン」は名前だけ知っている遠い存在だった。
しかし、仏像を彫るようになって、神様や信仰について考える機会が増えた今、初めてウルトラマンに興味を持ったので、観てみることにした。

正直最初の方は退屈だったけど、それでも全部観通すことが出来たのはprime videoのおかげです。
prime videoはウルトラシリーズが全話観放題。
前夜に数話ダウンロードしておいて、通勤時間にスマホでウルトラマンを観るのはとても快適だった。ついでに映画もうじゃうじゃ観放題だし、amazonの商品はすぐ届くようになるし、amazon prime(prime video)最高です。

 

初代ウルトラマンを全話観て印象に残った回

第7話 バラージの青い石

この回までのウルトラマンはずっと退屈だった。
まずウルトラマンがハヤタ隊員と一心同体になって地球を毎回守ってくれる理由からして、「ハヤタを自分の不注意で死なせてしまったから」というのが釈然としない。
ハヤタを生き返らせてあげるだけじゃ駄目なのか。

2話で、かの有名なバルタン星人が出てきたものの、内容としては特に面白くなかった。6話までずっとそんな感じが続いた中、「あ、ちょっと面白いかも」と初めて思えたのが「バラージの青い石」だ。

中東にある砂漠のゴーストタウン、バラージ。
そこに現れたアントラーという怪獣をウルトラマンがやっつける話。
アントラーは5000年前からバラージ近辺に生息し、人を襲うのだが、なぜかバラージの町そのものは襲撃しない。
その理由は、バラージには守り神がいるからだそう。
神殿に案内された隊員たちはそこで、ウルトラマンに酷似した神像を見つける・・

「バラージの青い石」は、ウルトラマンの生みの親と言われる金城哲夫氏が手がけた脚本だそう。(ここで私は“ウルトラマンの生みの親”とされる人がたくさんいることを知る)
ウルトラマンという物語に潜む信仰観の一端が初めてうかがえた話だった。

第10話 謎の恐竜基地

ジラースという怪獣のエリマキをおもむろにひきちぎって、闘牛ごっこをするウルトラマンに笑ってしまった。でもよくよく考えると可哀相だな、ジラース。
ここらへんからウルトラマンという物語にグルーヴ感が出始めてきたように感じた。

第15話 恐怖の宇宙線

なんだかとても心に残る回。
少年が土管に描いた空想の怪獣が、宇宙線の影響で実物化してしまうという話なのだけど、この少年の絵が下手なので、出てきた怪獣が全然怖くない。そして動きも見た目にたがわず、寝てるだけ。

成田亨氏の作品集によると、この二次元怪獣ガヴァドンは抽象彫刻の手法を取り入れたのだそう。確かに成田氏のデザイン画は抽象性が高く神秘的だが、立体に起こしてみるとゆるキャラ感すさまじく、現場との意思疎通ができなかったのかと思ってしまう。
でもそこが面白い。

また、物語にも突っ込みどころが沢山ある。
例えば、ガヴァドン退治に手を焼く科学特捜隊。
科特隊のおちゃらけ担当、イデ隊員が
「土管の絵を消しちゃえばいいんじゃない?」と提案するも、ムラマツキャップから「くだらんことを言うな!」と却下されてしまう。なぜかムラマツやアラシはあくまで実体化したガヴァドンをやっつけたがっているが、イデの提案が最も合理的ではないか?
ドンマイ、イデ。きっとテレビの前のみんなも同じこと思ってたはずだよ。

その後、寝てるだけで危害を与えないガヴァドンは結局ウルトラマンによって倒されるのだけど、「ガヴァドンを殺さないで」という子供たちの訴えにより、特別措置が施されることに。

ウルトラマン「毎年7月7日の七夕に会えるよう、ガヴァドンを空の星にしてあげよう」
子供「でも、七夕に雨が降ったらどうするんだよぅ」
ウルトラマン「(無言)」

何か言ってあげて、ウルトラマン!

子供の素直な心と、ウルトラマンや科学特捜隊の存在意義が初めて衝突を起こす印象的な回だった。この後、シリーズの終盤でイデがどんどん病んでいったのも気になった。

第20話 恐怖のルート87

ヒドラの造形が好き。
怪鳥のような風体は中国の幻獣も連想させて、かっこいい。

また、科学特捜隊の紅一点、フジアキコ隊員が活躍するのもいい。
表向きの主人公はハヤタ隊員であるが、彼はあくまでウルトラマンを憑依させるイタコの役割でしかない。
イデの少年性とフジの女性性、この二つのキャラクターが無ければウルトラマンという物語に何の深みももたらされなかっただろう。

この回の肝は霊の存在だ。
ヒドラを動かしているのは、交通事故死した少年の霊だったが、その霊が見えるのはフジ隊員(とホシノ少年)だけ。
琉球王国の祭祀を司っていた神官のことをノロといいますが、ノロと似て非なる存在としてユタという民間霊能者もおり、ユタは現在も沖縄や奄美で活躍しています。
ハヤタ隊員がウルトラマンを降臨させるノロだとしたら、フジ隊員の個人的霊感はさしずめユタのような役割のように感じた。

ラストにムラマツキャップが唐突に放つ
「白鷺は乙女の化身と言う・・」
の言葉もかなり耳に残るパンチライン。
ネットで調べてみたものの、そのような言い伝えは発見できませんでした。

第33話 禁じられた言葉

これはもうとにかく、メフィラス星人がかっこいい!
ハイレグ状に発達した大臀筋、抽象彫刻のような頭部、そして知的で紳士的な割にはかなり身勝手な所も、かわいい。

そしてこの回で特筆すべきは、巨大化したフジ隊員がビルを壊すシーンだ。これはメフィラス星人が暗示をかけたものでフジ隊員の意思とは無関係だが、フジ隊員は今見ても相当な美女なので、そんな人が虚ろな顔でビルをボコボコ破壊するシーンは強烈だった。ウルトラマンにおけるユタ的存在であるフジの、隠れたエネルギーが噴出した回だと言えるのかもしれない。

第34話 空の贈り物

完全にウルトラマンで遊んでいる回。
この回を観て初めて、小学生がよくやる、カレースプーンを掲げるあのポーズに元ネタがあったことを知る(しかもオリジナルで)。

冒頭からして、サラリーマンが飛び降り自殺するシーンから始まり
「人間だって降ってくる。とかく東京の空は危険である。」
というナレーションがシュール。よく放送を許されたと思う。

スカイドンという重いだけで何もしない怪獣に対して、科学特捜隊が間抜けな作戦を繰り返しては失敗するくだりは、シン・ゴジラの前半のようでもあり、非常に現代的。

 

第37話 小さな英雄

ラスト3話にして、イデが病む回。
イデが急に、科学特捜隊の存在意義に疑問を持ち始める。
「科特隊が何やったって、結局怪獣を倒すのはいつもウルトラマンじゃないか」
ラスト3話でそれ言っちゃうか、イデ!
そんなのこっちは最初からずっと思ってたから!

とは言え、イデの言うことは正しい。
「どうせウルトラマンが来てくれるさ」とすっかりやる気をなくすイデの眼前で、ピグモンがやられてしまう。ハヤタにビンタされるイデ。
「ピグモンですら人類のために命を投げ出しているのに、お前は科特隊の一員として恥ずかしいと思わないのか!」
「くそぅ、僕が間違っていた!」
いや、イデは間違ってないと思うよ・・・・

第39話 さらばウルトラマン

最終回。
まず、ウルトラマンも勝てないくらい強いゼットンを、なぜ科学特捜隊ごときが倒せるのか?
どうしても、イデが病んだことへの辻褄合わせのように見えてしまう。

そして、倒れたウルトラマンを迎えにきたゾフィーの言葉。
「地球の平和は人間の手でつかみ取ることに価値がある」
いや、だから今さらそれ言われても・・・・
「だったらせめて俺の命のハヤタにあげてくれ」と懇願するウルトラマンに対して
「命をふたつ持ってきたから、ひとつをハヤタにあげよう」とゾフィー。
だから、最初からそうしていれば、地球の平和は人間だけで守ろうとしたし、ウルトラマンも39話分闘わなくて済みましたよね。
遅い、遅いよゾフィー。何もかも遅い。
ウルトラマンが地球でしてきたこと大体否定されて終わってしまった・・。

まとめ

後半、愚痴ばっかりのように見えますが、かなり楽しく観ました。
1980~2010年代のテレビやマンガやゲームを色々観てきた30代の女が、1966年のウルトラマンを観ても全く面白くないのではないかと思ったけど、そんなことは全然なく、すごく面白かったです。

面白く観れた理由は分かりやすい勧善懲悪ではなかったから。

ウルトラマンは確かにチートで神と言える存在だけど、神も子供たちに疎まれたり、人類の為にならないと言われたりと、アイデンティティの揺らぐ場面が多く描かれている。

怪獣は確かに地球の平和を脅かす存在だけど、だからといってやたらめったら殺していいものなのか?むしろ、彼らこそ神に近い存在なのではないか?と考えさせられる。

そして人間。回を追うごとに人間臭さの増していく科学特捜隊の面々は、善とも悪ともつかない神的存在にどう対峙していくべきなのか。

そうした普遍的なテーマが「ウルトラマン」を形作っていることが分かりました。
もう30代だけど、観て本当によかった!

「いまAmazon Primeでウルトラマンを観ている」と言うと、おじさまたちから「だったらセブンを観ろ。セブン至高」と数名から言われたので、今度はセブンを観ようかと思っています。
それでは!

 

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