ショビ書房のホリディ

マンガ・仏像彫り日記・℃-ute・ハロプロなどについて書いています。

中川学「くも漫。」闘病実録マンガの皮を被った上質推理ミステリー。

今週のお題「読書の夏」

 面白いマンガを読んだので久々にレビュー。

タイトルは「くも漫。」。くも膜下出血で倒れた中川学さんによる実録闘病マンガです。

くも漫。

くも漫。

 

 

実録闘病マンガに外れなし

作者本人の闘病生活を告白する実体験マンガは数多くあります。

近年では武田一義先生の睾丸ガン闘病記「さよならタマちゃん」などが名作です。これは絶対読んだ方がいい!

さよならタマちゃん (イブニングKC)

さよならタマちゃん (イブニングKC)

 

 

「さよならタマちゃん」に限らず、実録闘病マンガに外れはありません。

肉体的苦痛な心情変化における具体的描写がリアリティに溢れているからです。

 

今回取り上げる「くも漫。」も例にもれず、描写がリアルです。

「うわー、くも膜下出血ってよく聞くけどこんな感じなのか・・・・ていうか誰でも突然なる可能性あるのか・・・・」

と読んでいて他人事とは思えなくなります。

 

「くも漫。」の特徴は、たまに夢と現実を行ったり来たりするような幻想的な描写が主に痛みを表現するシーンにおいて多用されることです。

(以下、画像は全て中川学「くも漫。」(リイド社)より引用)

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怖いですね。

 

闘病マンガの皮をかぶった推理ミステリーマンガ

しかし「くも漫。」が他の闘病実録マンガと一線を画しているのは

一番盛り上がるシーンがなぜか病気とは全く関係ない所にある点です。

(※これより下では多少のネタバレを含みます)

 

事の発端は、作者がくも膜下出血したのが運の悪いことに風俗店だった所にあります。

作者が絶頂に至ると同時に脳の血管がプチッといってしまうのです。

 

もちろん救急隊員に運ばれる時はマッ裸。

風俗嬢が彼の脱いだ服と持ち物一式をまとめて救急隊員に渡してくれるのですが

うっかりして靴だけ渡し忘れてしまいます。

この小さなミスが、後のクライマックスの伏線になるとは・・・・

 

そう、このマンガ、闘病マンガと見せかけて、

実は超上質な推理ミステリーマンガだったのです。

 

本当に怖いのは病気ではなく親戚一同

お話の後半、意識の戻った作者のもとに親戚たちがお見舞いへ来ます。
なんか作中から察するに、作者さんの一族は親戚付き合いが大変盛んのようで、
10人くらいの親戚が一斉に病室に駆けつけるんです。
 
一命は取りとめたものの、病状はまだ予断を許さない状況。
なのにこんなに大勢押しかけるか!そっとしといて!とつい言いたくなりますが、
こんなのはまだ序の口。
親戚筋の見舞いは父のちょっとした疑問から思わぬ方向へ転がります。
 
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「靴が見当たらないんです」
この一言をきっかけに、親戚たちは病人の前でケンケンガクガクの議論をはじめます。
 
靴がないことをなぜ父が気にかけているか?
それは、風俗店で倒れたことを父母が知らないからです。
病院の人たちは作者が風俗店から救急車に運ばれたことを黙ってくれていました。
札幌市内すすきの周辺で倒れた時作者は意識不明になっていて、どこで何をしていたかは本人にも救急隊員にも分からない、というテイでそれとなく口裏を合わせています。
 
ところが両親は、息子が倒れた時の詳細が不明なことが逆に無気味で仕方ない。
その中で唯一の手がかりが、「行方不明の靴」だったのです。
 
病院の話では道端で倒れていたらしいが、ならば靴は履いていたはず。
なぜ靴が無いのか。これが「倒れた時にいた場所」と関係があるのではないか?
父はそう睨みました。
 
父、鋭い。
息子は焦ります。
ところが父以上に鋭い人がその場に居ました。名探偵“ちさおばさん”です。
 
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「靴を履いてなかったってことは靴屋でためし履きでもしてたんじゃな~い?」
と適当な結論をつけて病室を後にしようとする親戚たちに待ったをかけます。
 
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ここから親戚一同のすさまじい推理合戦が始まります。
おじさんたちが推論を持ち出しては、それを完璧な論理で潰すちさおばさん。
意識が戻ったばかりの病人になんという仕打ち!
ちさおばさんを中心としたやりとりを前に、「親戚一同に風俗通いがばれるかもしれない」という不安で作者の血管はいつ再びぶち切れてもおかしくない状況です。
 
私も大量の気さくな親戚たちの中で育ったのでよく分かりますが
おじさんおばさんたちって無邪気ですよね。
その無邪気さが子供たちの首を絞めていることに気付いていないフシがあります。
傍目からみるととても愉快なのですが、議題の中心にされている子供からしたらたまったもんじゃありません。
 
さあ、名探偵ちさおばさんは「被害者が倒れた時に何をしていたか」を解き明かすことができるのか?
作者は真実を隠し通すことができるのか?
 
最後にはなんとも味わい深い結末が待っています。
ぜひ「くも漫。」を読んで確認して下さい。