ショビ書房のホリディ

マンガ・仏像彫り日記・℃-ute・ハロプロなどについて書いています。

お祭りの「ああアレね」を支える、たった一つの町工場。

テレビで和風総本家日本を支える職人たち~夏祭り・縁日編」を観た。

 

和風総本家は主に日本の町工場で作られているニッチな製品の様々な製造現場を紹介する番組で、お気に入りの番組のひとつ。

日曜は以前に人気だった回の再放送をやっているので、いつもそっちを観ている。

 

縁日に関わる製品がいくつも紹介される中で一番印象的だったのは「毛笛」だった。

 

「毛笛」と聞いてもピンと来ない。

ストローの先に風船がついていて、息を吹き込んで口を放すと「プェーーーー」と音が出るアレだ。

お飾りの鳥の羽根があしらわれているが、だから「毛笛」なんだろうか。

それともあの独特のふてぶてしい音が「毛」というイメージを連想させるのだろうか。

とにかくアレは「毛笛」というらしい。

 

その毛笛、実はすべてたった一つの町工場で作られているらしい。

しかも、和風総本家を観た限りでは、製造から検品までおそらく夫婦ふたりだけで行っているらしい。

お飾りの羽根をストローに貼りつける工程はすべて手作業だった。

 

ネットで「毛笛」を検索すると、通販ページのほとんどで「山ちゃん毛笛」と出てくる。

 

山ちゃん毛笛(色アソート) 【まとめ買い・100本】

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毛笛を製造しているのは群馬県富岡にあるヤマガタ玩具さん。

「山ちゃん毛笛」の山ちゃんはヤマガタのヤマなのだろう。

 

ヤマガタさんは元々卸しの仕事をしていたが、毛笛をつくる下請けの製造会社が次々と倒産するにつれ「毛笛を残したい」という思いから自社で毛笛を製作するようになったそう。

数年前には毛笛の風船をつくる工場が廃業した。

毛笛の風船は普通の風船よりも薄くできた特注品だ。ヤマガタさんはとうとう風船も自社でつくるようになった。

 

こうした成り行きが連続した結果、今やヤマガタ玩具は毛笛生産率100%の工場である。

成り行きではあるが、成り行きの中にヤマガタさんの毛笛に対する思いが存在しなければひっそりと毛笛の存在は縁日から消えていたのだろう。

 

音はうるさいが、吹けば飛ぶよなちっぽけな存在の毛笛。

正式名称も知らない。

毛笛が消滅の危機にあっても政府や世間は絶対に警鐘を鳴らさない。

 

でも見たら誰でも「ああアレね。」とすぐわかる存在。

そんな1億人の「ああアレね。」をたった一つの町工場が支えている。

 

風船だけど風船じゃない

 

今までの人生で毛笛について思いをはせたことは一度もなかった。

思い出も、石神井池でボートをこぎながら毛笛をしつこく鳴らしていたら近くのカップルに「うるさい」と怒られたことくらいしかない。

 

よくよく考えるとおもしろいオモチャだ。

笛なのに、息を吹いた時点では音が出ない。

まず風船の中に息を吹き入れて、それを後から放出することで音を出す。

だからフルートやサックスと違って息の強弱は音色にまったく影響しない。

音の高さも変わらない。音量も変わらない。

出来るのはストローの口を指で押さえてSTOPとPLAYを切り替えることだけだ。

風船の中に音の素をパンパンに溜めて、放出するという単純動作のくりかえし。

音質もきれいな音とは言いがたい。

でも自分の息吹が風船に溜まり大音量となって外に響きわたるというメカニズムは心が大きくなった気分になる。

息がダイレクトに音に変換される笛と違って、風船に息を溜めるというワンクッションがあるからよけいにプリミティブな感動があるのだろう。

 

こんな風に考えていくと、毛笛にまつわるあらゆるものがチャーミングに見えてくる。

風船なのに膨らんだ状態をキープするわけでもなく、空に飛ばすこともしない。ただ息という名の音の素を一瞬だけ溜めておくためだけの、一時保管庫としての風船。

毛笛の風船は、風船としてはかなり特異な人生を歩んでいると思う。

 

また先にも書いた「毛笛」という名前の謎も気になる。

そしてお飾り以上でも以下でもなくひたすら純粋にお飾りに徹する、彩色されたあの羽根の美しさ。

 

今年の夏、祭りで毛笛を見かけたら必ず買う。